知る人ぞ知る一流企業「貝印」の魅力

今回は、知財功労賞・特許庁長官表彰を受賞した創業111周年の老舗刃物メーカー・貝印の執行役員 知的財産部長の地曵慶一さまに今回の受賞に至った経緯と貝印の魅力についてお話を伺いました。

 

知る人ぞ知る「貝印」

いえいえ、知っていますよ。あのカミソリの貝印でしょ!?

多くの方が知る「貝印」は、そう、あの温泉浴場や、ホテルのアメニティでよく見掛ける使い捨てタイプの「T字カミソリ」の貝印でしょう。

「KAI」のマークで知られ、国内の使い捨てカミソリの分野で4割近いシェアを握る製品ですので、誰しもどこかで目にしたことがありますよね。

実は、筆者である私も貝印のイメージはあのT字カミソリでした。

しかし、求人の打ち合わせで伺った東京の岩本町にある本社でショールームを拝見するやいなや、そのイメージは一変したのでした。

1Fには目を見張るような素敵なシステムキッチンとお洒落な調理器具の数々が展示され、あのクラシカルな「T字カミソリ」のイメージは微塵も感じられなかったのです。
唯一、切るモノというキーワードで共通するものは、豊富な包丁やナイフにハサミでしょうか。

そして、それらは洗練されていて実にカッコイイ

この「カッコイイ」意匠も今回の受賞のポイントの一つだったようです。

同社は今年で創業111年を迎え、グループでの売上高は2018年3月期で461億円、うち半分を海外が占めるという世界的な刃物メーカーに成長し、これまでのイメージをはるかに超えた企業に変貌していました。

 

◆今回受賞された「知財功労賞・特許庁長官表彰」とはどのような賞なのでしょうか?

地曵さま:
知財功労賞というのは、毎年4月18日「発明の日」に、知的財産権制度の発展及び普及・啓発に貢献のあった個人に対して「知的財産権制度関係功労者表彰」、制度を有効に活用し円滑な運営・発展に貢献のあった企業等に対して「知的財産権制度活用優良企業等表彰」として経済産業大臣表彰及び特許庁長官表彰を行っています。両表彰を合わせて、「知財功労賞」と総称しています。

特許庁長官 宗像直子様より表彰状を受け取る代表取締役社長の遠藤宏治氏

当社は今回初めて、知的財産権制度活用優良企業等として「特許庁長官表彰」を受賞いたしました。

 

◆今回の受賞は、どのようなポイントが評価されたのでしょうか?

地曵さま:
知財功労賞というのは、毎年4月18日「発明の日」に、知的財産権制度の発展及び普及・啓発に貢献のあった個人に対して「知的財産権制度関係功労者表彰」、制度を有効に活用し円滑な運営・発展に貢献のあった企業等に対して「知的財産権制度活用優良企業等表彰」として経済産業大臣表彰及び特許庁長官表彰を行っています。両表彰を合わせて、「知財功労賞」と総称しています。

(1)意匠と革新的な技術により国内外から高い評価
シンプルなデザインの中の特徴的部分やアイコン的デザインを保護するために、デザイナーの創作の意図を汲みつつ効果的に保護することが可能な部分意匠制度を積極的に活用しています。

多数の意匠で保護している使い捨てカミソリでは、国内シェアの約4割を占めていまして、シェアはトップです。また、世界初の3枚刃カミソリを開発したメーカーとして海外からも広く認知されておりまして、「関孫六」・「旬」ブランドなどの包丁は、国内外から高く評価されていいます。

但し、刃物というのはご存じのように非常にシンプルな構造であることもあり、コモディティ化しやすい商品だと考えています。

ですので、技術的な開発と同様に、より優れたデザインによる他社との差別化が求められるわけです。

最近「デザイン思考」や「デザイン経営」という言葉を耳にする機会が増えましたが、単なる意匠としてのデザインではなく、ブランディングやイノベーション開発もデザインであり、事業戦略の最上流からデザインが関与することが重要です。

貝印が取り組んでいるのがまさにこの「デザイン経営」です。

実際に 欧米の例を見ても、デザインに力を入れている企業の株価大きく伸びているというデータもあります。【知財ワークス調べ】

 

出典:日刊工業新聞 2019年4月18日(発明の日)掲載記事

 

出典:日刊工業新聞 2019年4月18日(発明の日)掲載記事

 

さらに貝印では、経営方針の中に「DUPS」という標語を掲げています。

これも弊社の取り組みをご理解いただける象徴的なものではないかと思います。

D=Design デザイン
U=Unique ユニーク
P=Patent  パテント
S=Story    ストーリー セイフティ

 

知財ワークス:
今では当たり前のように使われている3枚刃のカミソリは貝印さんが世界で初めて開発したんですね。
凄いです。

そして貝印がデザインに力を入れている理由もよく理解できました。

週末料理人の私としては、包丁もとても気になります。

包丁の国内生産シェア50%を占める日本一の岐阜県関市は貝印の創業の場所で、鎌倉時代には良質な土と松炭を求めて、日本刀の刀匠が移り住んで刀鍛冶を始めたのがその最初なのだそうです。

特に孫六兼元はひときわ優れた刀匠として知られていて、「三本杉」という独特の刀紋によって名匠「関の孫六」の名を一躍世にとどろかせたそうです。

貝印も国内家庭用包丁シェアトップ企業として国内外で知られるようになって、「関孫六」や「旬」のブランドを筆頭に、ミシュラン東京で二つ星を取得した日本料理「一凛」(いちりん)と初の共同企画製品「橋本幹造 両刃包丁」も高い評価を得ているようです。

日本の包丁はわざわざ海外から買いにくるほど絶大な人気ですからね。
日本が誇る伝統技術が世界で評価されるのは日本人としてとても嬉しい限りです。

 

(2)顧客志向を実現する知財の強化
中期経営方針の中で「顧客志向の高付加価値な商品・サービスを実現するための知財強化」が全社方針の一つとして掲載されておりまして、当該方針の策定には、知的財産情報分析も活用しています。

また、副社長が本部長を務める経営戦略本部内に知的財産部を設置して、副社長と執行役員知的財産部長とで毎週の知財に関する報・連・相を実施しています。

地曵さま:
今回の受賞ポイントの中でも最も重要なのがこの「知財の強化」という点です。
私も20年以上この知財業界におりますが、経営の中核に「知財」を据えて本気で取り組んでいる企業というのはそれほど多くなはないと考えています。

弊社は今年で111周年を迎えたわけですが、これからの100年で何をコアにしてビジネスを行っていくのか?
先を見据える力が非常に重要だと思っています。

知財ワークス:
その「先を見据える」ためのツールが知財特許情報分析ということですね!?

地曵さま:
そうです。
知的財産部は経営の水先案内人だと思っています。

例えば、特許出願には、その企業の意志や考えが、意識的か無意識かに関わらず表れていると考えており、これを分析することで色々なものが見えてきます。

M&A(合併・買収)や新規事業開発にも使える有益な情報なわけですが、経営陣の中には知財情報がそうした際に先を見るためのツールであるとは強く認識していない方もいるので、その考えを払拭して、いかにこの経営陣や各事業部からの信頼を得るかが重要です。

貝印でも「IPランドスケープ」を用いて分析をしていますが、開発部門部や知財部門しか分からない専門的な内容に留まるのではなく、当業界を取り巻く環境や全社的な課題に沿った、経営の意思決定に役立つ魅力ある内容となるよう工夫をしています。

弊社では、これまでの受け身の知財から、M&Aや新規事業にかかわる戦略部門に脱皮させることが必要だと思っています。

知財ワークス:
素晴らしい取り組みだと思います。

今回のインタビューでどうしてもお聞きしたかったことがあります。

地曵さんが貝印に転職を決意した理由とは?
地曵さんは、長年お勤めになった大手日系日用品メーカーを辞めて1年前に貝印に転職されたとお聞きしましたが、知財業界で有名な地曵さんがなぜ貝印に転職を決意されたのでしょうか?

地曵さま:
先ほども触れましたが、経営の中核に「知財」を据えて本気で取り組んでいる企業など今どきあまり無いのではと思っていたわけです。
ところが、執行役員としてオファーをいただいた貝印の遠藤副社長より、「チーム地曵を作ってくれ」との言葉をいただき心が動きました。

100年を超える老舗企業がドラスティックに変革するまっただ中の、その現場に立ち会える稀有なチャンスであると大変魅力に感じました。
その一翼を担えると思うと、とてもワクワクしたことを覚えています。

知財ワークス:
そのようなエピソードがあったわけですね。
なんだかTVドラマになりそうな感動的なお話です。

すでにチーム地曵には、知財分析のノウハウを持つアナリストも加わったそうですが、さらにパワーアップするために採用したい人物像について教えてください。

地曵さま:
◆貝印が知財部門に求める人物像はこんな方です。

(1)開拓者精神を持ち、自ら課題発見、解決策を立案し、実行までできる人
(2)知財の企業における重要性とその広がりを認識し全社的な“伝道師”になれる人
(3)知財の仕事を楽しめる人

知財ワークス:
ありがとうございます。
知財に係る方にとっては、まさに理想的なシチュエーションですので、とてもやりがいがあると思います。
是非、貝印さまの取り組みに共感する方をご紹介させて頂きます。

 

(3)見た目で侵害を明らかにできる意匠出願に注力
税関における取り締まり効果を見越して、見た目で侵害を明らかにできる意匠の出願に力を入れておりまして、権利を長期間維持して、模倣品による被害防止に取り組んでいます。

さらに、各国の有名シェフとコラボした高級包丁や調理ツールを欧米にて展開しておりまして、コラボレーションビジネスを守るために、当該国にて意匠・特許等で知財網を構築しています。

これらの取り組みがご評価いただいて今回の受賞となりました。

◆今後の展望
111周年を迎えた貝印は、次の100年を見据えて何をコアとするのか?
貝印は「知的財産部門」を立ち上げるだけでなく、経営計画にも、知財戦略を埋め込んで、まさにマーケティング活動と知的財産活動との連携・融合に実際に挑戦しようとしています。

また、「知られていないことは存在していないのと同じ」という言葉があるように、いくら良い製品を世に送り出していても、多くの方々にその魅力を知っていただかなくてはいけません。

貝印では、広報部・宣伝部門とも連携して企業および製品のさらなる認知度アップに力を入れています。

 

◆刃物だけではない貝印
美容に、キッチンに、医療現場に。
さまざまな場所でKAIグループの製品が活躍しています。
1万点以上のラインナップには、生活をより便利にするアイデアの詰まったアイテムが揃っています。

 

創業111周年の貝印

美容カミソリ、キッチンボウルが2018年度の「グッドデザイン賞」を受賞

消費者に寄り添った機能的なデザインが評価 ※過去の受賞歴一覧

 

 

医療機器
外科や眼科用の切れ味の鋭いメスなどの豊富なラインナップを取りそろえ、皮膚組織を採取する筒状メス(生検トレパン)では世界シェアの約30%、国内シェアの約80%を獲得。

貝印は、これまで以上に「知る人ぞ知る貝印の魅力」をさらに知っていただく活動に力を入れていきたいと思っています。

インタビューを終えて感じたこと:
T字カミソリの印象が強かった企業ですが、その他の分野にも数多くのラインナップを持ち、医療用刃物事業のフィールドは、医療技術が進んだ先進国だけでなく、医療技術、経済ともに発展途上の国を含めて90か国以上に及んでいるそうで、これには驚きました。

そして、製品の素晴らしさだけでなく、経営の中核に「知財」を据えるという革新的な取り組みにも感動しました。

企業における知財のあり方が大きく変わろうとしているいま。
知財業界に大きなインパクトを与えることは間違いなさそうです。

これからどんな展開を見せるのかとても楽しみな企業です。

 

【貝印株式会社】
1908年、刃物の町として有名な岐阜県関市に創業。現在、生活に密着した刃物を中心とする刃物、カミソリ、メンズグルーミング、ツメキリなどの身だしなみやビューティーケア、包丁をはじめとする調理・製菓、医療用など1万アイテムにもおよぶ商品を展開し、商品の企画開発から生産、販売、物流までの一連を行っている総合刃物メーカー。

本社:東京都千代田区岩本町3-9-5 代表取締役社長:遠藤宏治

KAIグループホームページ

会社概要 https://www.kai-group.com/global/about/company.html
企業HPトップページ https://www.kai-group.com/

 

◆プロフィール 地曵 慶一 じびき けいいち

(貝印株式会社 執行役員、経営戦略本部 知的財産部長 兼 法務部長)

■ 略歴 ■
大手日系日用品メーカーにて約23年間、知財担当・部門長職等を経験後、2018年 4月に現職就任
2012年米国ワシントン大学ロースクールLL.M.

■ 主な活動 ■
経産省特許庁各委員会・プロジェクト等参加、日本知的財産協会、 日本知財学会、ライセンス協会等登壇多数。

 

◆参考情報

東洋経済 「貝印が使い捨てカミソリで首位を守れる秘密」
https://toyokeizai.net/articles/-/218764

【貝印】内田理央 貝印オフィス訪問 予告編  ショールームの紹介ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=5LwGSpsoSZc

総合刃物メーカーの貝印株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:遠藤 宏治)は、平成31年度「知財功労賞」において「特許庁長官表彰」を受賞しました。

特許庁の知財功労賞受賞に関わるHP
https://www.jpo.go.jp/news/koho/tizai_koro/document/h31_tizai_kourou/11.pdf

知財ワークス求人情報(募集要項)
貝印株式会社